約10年間もインターネット上で浴びせられた誹謗(ひぼう)中傷被害を乗り越えたお笑い芸人、スマイリーキクチ(42)が一連の経過をつづったベストセラー「突然、僕は殺人犯にされた」。さらに巧妙化したネットトラブルへの対処法を改訂版で収録し、新たに竹書房から文庫として発売された。スマイリーは今のネットトラブルをどう見ているのか。
ペ・ヨンジュンのものまねを得意とするスマイリー。東京都足立区出身で、1993年にお笑いコンビを結成し、翌年からピン芸人で活動。笑顔で毒舌を吐く芸風で人気となった。
ところが99年からネット上で、出身地が同じというだけで、ある凄惨な殺人事件の実行犯と決めつけられる、しつこい中傷被害に苦しめられた。中傷を書き込んだ19人が08、09年に検挙され、スマイリーはその経緯を本にして2011年に発売した。ネット犯罪の被害者による本として注目を集め、翌年に超難関校・私立開成学園の教材に採用された。同校では不定期で講演も行い、今でも月に1回はネット関連の公的講習会へ自主的に通っている。
スマイリーは、「法律は後手後手で追いつかない。ネット利用時は、言葉を口に出す以上に慎重に気をつけないといけない。最近で言えばLINEなど、たった一言で人生を台無しにすることまで現実に起きていて、そんな危険性は利用する皆さんすべてにある」と、最近のネットトラブルを分析。最も注意を促したいことの一つに「匿名性はない」ことを挙げる。
「ネット上で何かすれば身分証を置いたのと同じ。安易に写真とか個人情報をアップしない注意深さが必要です」
ところが社会のネット依存は深まる一方。講演会では、フェース・トゥー・フェースのコミュニケーションの減少を痛感するという。
「終わった後、質問や感想などを尋ねても発言する人はいない。後から僕のブログなどに、感想がドッと寄せられる。実社会で建前、ネットで本音を言う構図です」
スマイリー自身は正反対。もともとネットも使ったことがなかった。
「足立区の下町育ちで、近所の人とのあいさつや街の祭り、引っ越しがあれば手伝いなど、人と接して育った。今も道に迷えば人に聞く。人間って、目や表情で70%は分かるとも言います。海外で言葉が通じなくても身ぶり手ぶりで意思が通じたりしますよね」
ネットの怖さは、情報を介する人が増えるほど、どんどんねじ曲がって伝わっていくことにあるという。「正しい情報を自分の目で見分けてください」と、ネット利用者に訴える。
芸能人が関係するネットトラブルはもはや日常茶飯事。ペニオク詐欺、なりすまし、ブログ炎上などが後を絶たない。最近もスマイリーと同じ事務所の女優、前田敦子(22)のモノマネをテレビで披露した芸人、小林礼奈(22)のブログが炎上したばかりだ。
誹謗中傷事件の際は周囲の人に助けられたというスマイリー。「先輩の松村邦洋さんが毎日のように電話をくださったり、2回くらいしかお会いしたことがなかった千原せいじさんが『仕事ができなくて大変やろ。100万くらいなら貸すよ。返さんでいいから』と言ってくださったこともありました」
いまもネットで苦しめられている人に、こうアドバイスを送った。「1人で抱えこまないでほしい。人間社会には、100人に1人は味方がいる。心の持ちようです」