
日本ヒューレット・パッカードは5月19日、2014年夏モデルのモバイルノートPCを発表した。今回はその中から液晶が360度回転するノートPC「HP Pavilion 11-n000 x360」が編集部から送られてきたので、試用レポートをお届けしたい。
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■ 4モードに変形できるコンバーチブルPC
これまで同社のノートPCを数多く試用してきたものの、液晶が360度回転するタイプは無く、今回ご紹介する「Pavilion 11-n000 x360」は、Lenovoの「Yoga」シリーズと同様、普通のノートPCモードに加え、スタンドモード、テントモード、タブレットモードと、4つのモードに変形できるコンバーチブルPCとなる。
「Pavilion」シリーズなので、対象は一般ユーザーであり、スペックなどをある程度抑え、価格を優先した構成になっている。主な仕様は以下の通り。
プロセッサはBay Trail-MのCeleron N2820。2コアでクロックは2.13GHz。Burst時には2.39GHzまで上昇する。キャッシュは1MB。TDPは7.5W、SDPは4.5W。Bay Trail-Tほど省エネではないものの、Core系と比較すれば、随分省エネなのが分かる。
メモリは4GB、ストレージはハイブリッドタイプの500GB HDDを搭載している。OSは64bit版Windows 8.1。手元に届いたシステムはWindows 8.1 Updateにはなっていなかった。日本HPはUpdate適用済みのデスクトップPCを出しているが、ノートPCはまだのようだ。
ディスプレイは光沢式11.6型のHD解像度(1,366×768ドット)で10点タッチ対応。グラフィックスは、プロセッサ内蔵Intel HD Graphics。外部出力用としてHDMIを備えている。
ネットワークは有線LANがEthernet、無線LANがIEEE 802.11b/g/n。Bluetooth 4.0にも対応。Gigabit Ethernet非対応なのは残念なところだ。
そのほかのインターフェイスは、USB 3.0×1、USB 2.0×2、SDカードスロット、92万画素Webカメラ、音声入出力、加速度センサー、デジタルコンパス、ジャイロスコープ。
一通り揃っている上に、このクラスのノートPCとしては、デジタルコンパス、ジャイロスコープを内蔵しているのは珍しく、タブレットモードでの使用を意識してのことだろう。
サイズは308×215×21.9mm(幅×奥行き×高さ)、重量約1.5kg。バッテリ駆動時間は最大4.5時間。モバイルPCとして考えると重量とバッテリ駆動時間が今一歩か。店頭予想価格65,000円前後(税別)も内容を考えると若干高めかも知れない。
筐体は本体のフチも含め真っ赤。少し派手だが、個人的には好みだ。Beats Audioのロゴも目立つ。塗装は指紋が付きにくい「ソフトタッチペイント」を採用。実際気になるような指紋は付かないのが特徴だ。
液晶パネル中央上にWebカメラ、中央下にWindowsボタン。左側面にロックポート、電源ボタン、USB 2.0×1、音声入出力、音量±ボタン。右側面に電源入力、Ethernet、HDMI、USB 3.0×1、USB 2.0×1、SDカードスロット、HDDアクセスLEDを配置。裏は手前にスピーカーがある。メモリなどへアクセスする小さいパネルは無いが、Bay Trail-Mと言うことを考えると特に必要無いだろう。バッテリは内蔵式で着脱はできない。付属のACアダプタのサイズは約90×35×25mm(同)、重量169gとコンパクトだ。
液晶パネルは10点タッチ対応の11.6型を搭載している。IPS式でないため視野角は狭く、発色もクラス相応と言ったところ。あと一歩のクオリティアップを望みたい。
キーボードの周囲やパームレストはつや消しのアルミ素材を採用。他の赤い部分とのコントラストがいい感じだ。タッチパッドも同様の素材が使われ、物理的なボタンが無い1枚プレートタイプとなっている。
キーボードは10キー無しのアイソレーションタイプだ。たわみも無く、個人的には合格ライン。また一部狭くなっているが主要キーのキーピッチは約19mm確保され、配列なども普通で扱い易いキーボードとなっている。ファンクションキーはそのまま押すと機能キー、[Fn]キーとの併用で従来のファンクションキーの動作となる。
発熱や振動、ノイズに関しては試用した範囲では特に気にならなかった。特に同社の場合、発熱に関しては昔から「HP Cool Sense」を搭載し、効率的にコントロールしている。
サウンドはBeats Audioのロゴが付いているだけに、クラスの割に迫力のある音楽が再生できる。また意外だったのはテントモードで、この形状にすると、裏手前にあるスピーカーが、前を向く上、机に音が反射して、結構いい感じに鳴ってくれる。音楽や動画を再生するときは、テントモードにした方がより楽しめるだろう。
なお、360度回転するヒンジ部分はメーカーによると45,000回の開閉テストが行なわれており、安心していろいろなモードに変形させることができる。
■ Bay Trail-Mなのでパワーはそれなり
OSは64bit版Windows 8.1。先に書いた通りWindows 8.1 Updateはあたっていない。スタート画面とアプリ画面は2画面。デスクトップは、壁紙の変更とマカフィーへのショートカット1つ。タスクバーにピン止めが3つとシンプルだ。
HDDは500GBでハイブリッドタイプの「ST500LM000」を搭載。事実上C:ドライブのみの1パーティションで約449GBが割り当てられ空きは424GB。メモリ4GBでHDD 500GBと、Windowsマシンとしては標準的な構成だが、ハイブリッドHDDのキャッシュが効いているのか、気持ち普通のHDDよりサクサク作動する感じがする。
有線LANはRealtekのPCIe FE Family Controller、Wi-FiはRalink製、BluetoothはMediatek製だ。センサーに複数のデバイスも見える。
プリインストール済のソフトウェアは、Windowsストアアプリが、「Fresh Paint」、「HP Connected Photo」、「HPに登録」、「Windows 8入門」、「YouCam」、「マカフィーセントラル」。どちらかと言えば同社のアプリが中心の構成だ。
デスクトップアプリは、「HP Control Zone」、「HP SimplePass」、「HP AC Power Control」、「HP Support Assistant」、「Beats Audio」、「CyberLink Media Suite」、「HP Utility Center」、「HP Recovery Manager」、「マカフィーリブセーフインターネットセキュリティ」など。こちらも同社のユーティリティ系が中心となっており、必要以上にソフトウェアはインストールされていない。
ベンチマークテストは「winsat formal」コマンドと、PCMark 8 バージョン2の結果を見たい。バッテリ駆動時間テストはBBench。またCrystalMarkの結果も掲載した(今回は2コア2スレッドと条件的には問題ない)。
winsat formalの結果は、総合 3.9。プロセッサ 4.9、メモリ 5.9、グラフィックス 3.9、ゲーム用グラフィックス 4、プライマリハードディスク 5.9。PCMark 8 バージョン2は1193。CrystalMarkは、ALU 11837、FPU 13569、MEM 15896、HDD 12734、GDI 5369、D2D 3312、OGL 3858。
2コアのBay Trail-MだけにCoreクラスと比較するとそれなりに遅い。とは言え、プロセッサ 4.9、メモリ 5.9なので、普通のアプリケーションであれば気にならないレベルで作動する。
BBenchは、省電力、バックライト最小、キーストローク出力/オン、Web巡回/オン、Wi-Fi/オン、Bluetooth/オンでの結果だ。バッテリの残9%で15,399秒/4.3時間。仕様上の最大4.5時間とほぼ同等の結果となった。バッテリも着脱できないので、1日外で使うのには無理がありそうだ。
以上のようにHP「Pavilion 11-n000 x360」は、液晶が360度回転し、通常のノートPCモードに加え、スタンドモード、テントモード、タブレットモードと4つのモードに変形できるコンバーチブルPCだ。モバイルデバイスとして考えた場合、デジタルコンパス、ジャイロスコープを搭載しているもの魅力的。
プロセッサがBay Trail-Mなので、あまりパワーが無く、バッテリ駆動も4時間強だが、カラーリングも含めデザインがお洒落と言うこともあり、ライトにタッチ対応のWindows 8.1を使ってみたいユーザーにお勧めの1台だ。
【PC Watch,西川 和久】
会議や取引先へのプレゼンテーションに欠かせないプロジェクター。かつては高価だったこともあり、少ない台数を社内でシェアするという使い方も多かったが、機器本体の低価格化に加えて、会議などの活性化および参加者の意識共有に効果的であることが広く認知されたことで、昨今では各会議室ごとに導入している企業も珍しくない。
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また小型軽量化が進んだことで、営業マンが外出先でプレゼンを行う際に持ち出し、取引先で利用するケースも増えている。すでに幅広いビジネスシーンで「当たり前の機器」になりつつある状況だ。
オフィスに1台、あるいは会議室に1台という単位で導入されるビジネス用プロジェクターは、PCのように個人単位で導入される機器と違い、じっくり使い込んで機器のクセや特性を知る機会はそれほど多くないだろう。それゆえ新規に製品を選ぶ際も、何を基準にすればよいのか分かりにくい。
たとえ「明るさ」が重要なポイントであることは知っていても、いきなり具体的な値、例えば「3000lm(ルーメン)」という数値を出されて、それが適切な明るさなのかをどうか判断できる人はどれだけいるだろうか。
今回は連載の第1回ということで、まずビジネス用プロジェクターをよく知るためのキーワードを1つずつ挙げ、個々の意味合いをチェックするとともに、それらを考慮せずに製品をチョイスした場合、どのようなマイナスがあるかを含めて見ていこう。単なる用語集とは異なり、ある項目を軽視するとどこに影響が出るのかを知っておけば、メーカーサイトやカタログで製品の仕様を読み解くうえでの指針となるはずだ。
なお本連載はSOHO/中小企業をターゲットとしているため、同じプロジェクターでも家庭向けのホームシアター用途や、またビジネスユースの中でも学校の視聴覚ルームといった文教用途や多目的ホール、講堂、ミニシアターなどに常設する大規模な構築には触れない。トレンドの1つである3Dや4Kのほか、投写映像のタッチ操作を可能にするインタラクティブ機能や電子黒板機能についても同様だ。あらかじめご了承いただきたい。
●明るさ
プロジェクターを選ぶ際、第一に挙げられる指標が「明るさ」だ。本体のコンパクトさや価格の安さを打ち出した製品は明るさが足りず、会議室をよほど暗くしなければ投写映像が見づらいこともよくあり、プロジェクターの性能を如実に示す指標となる。
プロジェクターの明るさ(光束)は「ルーメン(lm)」という値で表す。数値が大きければ大きいほど、室内を暗くしなくとも視認しやすい、鮮明な映像が投写できる。一般的には、3000lmよりも上ならば部屋の照明を消さなくても鮮明な映像が得られ、それを下回っていれば部屋の照明を消す必要があると考えればよい。4000lmを超えると、投写するスクリーンの背後にある窓から日光が差し込んでいても、十分視認できるレベルになる。
もっとも、大きな光量を得るためにはそれだけ高性能なランプを搭載しなくてはならず、そうなると消費電力も高くなるほか、本体のサイズも大きくなり持ち運びに不便になる。また発熱量も増すのでファンが必須になり、騒音も大きくなる……といった具合に、欲張りすぎるとデメリットが増え、コストも上昇する。それゆえ、最低限必要な光量を備えつつ、その他の条件がどれだけ許容範囲内に収まっているかが、大きなポイントになる。
こうしたことからよく用いられるのが、部屋の広さ別に必要な明るさを算出する方法だ。具体的には、数人で利用する小会議室レベルであれば2000lm程度、20~30人くらいは入れる中会議室レベルでは3000lm程度、といった具合だ。照明を消さずに鮮明な投写映像を見たいという場合は、これらの値にいくらか余裕をもたせればよい。
ちなみに小会議室であれば、低価格である程度画面が大きいテレビやディスプレイで代用する手もあり、高輝度表示で手軽に取り扱えるメリットもある。ただし、低予算でテレビ以上の大画面が得られる点、持ち運びがしやすい点(複数の会議室で共用できる点)など、プロジェクターの優位性も見逃せない。
1つ覚えておきたいのは、各社が公表している明るさの測定条件は2種類が存在することだ。具体的には「白の明るさ(全白)」と「色の明るさ(カラー)」で、前者は単に真っ白な光を投写しただけの測定値、後者は光の三原色(赤、緑、青)をそれぞれ決まったパターンで投写した測定値を合計して得られた値となる。
当然「カラー」のほうがより実際の使われ方に即しているため、例えば白/カラーともに3000lmの製品と、白が3000lmでカラーは非公表という製品を比較すると、後者は暗く感じることもしばしばだ。標準的なビジネス用プロジェクターで使われることが多い投写方式でいうと、「3LCD(液晶3板)」方式は白とカラーの明るさが変わらず、「1チップDLP(単板DLP)」方式は白に比べてカラーが暗くなる。
色の明るさという指標は、3LCD方式を推進するエプソンが提案し、2012年に情報ディスプレイ学会(SID)がIDMS 15.4規格として測定基準を定めたものだ。色の明るさについて具体例を知りたい場合は、情報サイト「Color Brightness & White Brightness for Projectors」を利用するとよいだろう。基本的に海外モデルの測定値となるが、製品別に明るさが白とカラーに分けて表示されるので、目安として分かりやすい。
●接続方法
ビジネス用プロジェクターは多くの場合、ノートPCと組み合わせて使用する。接続方法の多くはディスプレイケーブルだが、ノートPCの外部映像出力端子がD-Sub 15ピンからHDMIに移り変わるのに合わせて、これらの接続に対応した製品が多くなりつつある。後述する高解像度化の恩恵を受けるためにも、HDMIは搭載しているほうがよいだろう。もっとも現行の製品であれば、ロングセラーの製品を除いてほとんどの製品がHDMI端子を搭載している。また、DisplayPortを搭載した製品もある。
これ以外の接続方法もある。1つはUSB接続で、マルチディスプレイの構築に使われるUSBディスプレイアダプタと同等の機能を内蔵し、USBケーブル1本で接続ができるというものだ。USBであれば実質どのPCにも装備されているうえ、HDMIやDisplayPortと同様、映像だけでなく音声も同時に送信できるので便利だ。ただし初回接続時はドライバのインストールが必要になるので、セミナーなどで複数の登壇者がPCを取り替えながらプレゼンするような場合は、先にいったん接続してドライバのインストールを済ませておかないと、進行が滞る原因になる。
本体にLANコネクタを備え、同一LAN上のPCからデータを読み込める製品もある。無線LANで社内ネットワークに接続しているPCと組み合わせて、ワイヤレスでプレゼンが行えるというわけだ。またエプソンの「Epson iProjection」のように、スマホやタブレットからワイヤレスでプレゼンを行うためのアプリを用意しているメーカーもある。
このほか、メモリカードやUSBメモリを接続してデータを読み込む機能もある。完全にPCなしで利用できるのが利点だが、内蔵のビュワーを使うため、対応するファイル形式に制限があり、万能というわけではない。PDFではバージョンが違うと読み込めない場合もあるので、事前のテストを行ったうえで必要に応じてバージョンを下げて再出力することが必要になる。
と、さまざまな接続方法があるが、何も1つの接続方法に決めてかかる必要はまったくない。後から接続方法や端子を増やすことは(外部アダプタで変換する方法を除けば)原則としてできないので、なるべく多くの接続方法に対応している製品を選んだほうが、うまく接続できない場合もつぶしがきく、くらいに考えておくとよいだろう。
●画面解像度および比率
高解像度化が著しいPCやタブレットの影響を受けて、プロジェクターも昨今は高解像度化が進みつつある。SVGA(800×600ピクセル)以下の製品は少なくなり、XGA(1024×768ピクセル)以上が当たり前になりつつある。また画面のワイド化にともなって、WXGA(1280×800ピクセル)を標準とする製品も多い。上位モデルになるとWUXGA(1920×1200ピクセル)に対応した製品もある。
もっともビジネス用途であれば、通常のプレゼン資料を投写するのに高解像度は不要だろう。会議室で遠くの席からでもプレゼンの内容が分かるよう、大きな文字で1ページあたりの情報量を少なくして資料を作成するのが普通だからだ。たとえ動画を再生する場合でも、画面いっぱいにフルHDで表示して高画質にこだわる必要性は乏しいといえる。
この辺りが画質最優先のホームシアター用プロジェクターとの大きな違いだ。解像度が高いほうが将来にわたって長く使える可能性はあるが、最低限でもXGAないしはWXGAクラスがあれば、不自由を感じることはほとんどない。
なおプロジェクターで壁面に投写する際は、天地、つまり床から天井までの高さは変えられないのに対して、横方向の投写面積は比較的融通が利くことが多い。それゆえ画面の比率はスクエア(4:3)よりもワイド(16:10や16:9)のほうが、それだけ多くの情報を表示できる。一部のプロジェクターが対応する左右2画面の同時表示でも、ワイド比率に対応しているほうが有利だ。
●重量とサイズ
ここまで主に機能について述べてきたが、プロジェクター本体の重量とサイズも製品選びの大きな要因だ。PC本体や周辺機器が軒並み薄型化と軽量化を果たしつつある中、プロジェクターも以前よりは小さく軽くなりつつあるが、それでも重量はいまだ2キロ台が当たり前、サイズもA4サイズが普通といった状況だ。
そもそもプロジェクターについては、本体に内蔵するランプが強い光と熱を発し、それをファンで冷却するという構造上、無理に小型化するとなると何かしらの機能が犠牲になりがちだ。具体的には明るさが失われたり、ファンを小型化したぶん回転数を上げる必要が出て騒音がうるさくなる、といった具合だ。それゆえ小型の製品を選ぶ場合は、どこかにひずみが出ていないか、チェックしたほうがよい。
昨今のモバイル向けビジネスプロジェクターは、スリムノートPCやUltrabookのようにある程度のフットプリントを保ちつつ、ボディを薄型軽量化した製品が主流になっており、2000lm以上で2キロを切るようなモデルも見られる。ノートPCや書類と一緒に持ち運ぶことになるため、重ねて持てる薄型ボディは都合がよい。
なお、LED光源を採用することで、ボディを驚くほどコンパクトにしたプロジェクターも増えつつあるが、ビジネス用途で考えた場合は、前述の通り、明るさとのトレードオフになりがちな点は注意したいところだ。
[山口真弘,ITmedia]
振り返ってみれば、家庭用4Kテレビを他社に先駆けて提案したのは東芝REGZA(レグザ)であった。2011年に発表された「55X3」がそれである。爾来、4Kトレンドを牽引してきた東芝の、この春夏モデルの展開が実に興味深い。
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40V型から84V型まで全サイズの4Kテレビを用意し、しかもIPSタイプでLED エッジライト方式の84V型(84Z9X)を除くすべてのモデルに正面コントラストの優れたVAパネルを採用、独自開発の直下型LEDバックライトを組み合わせているのである。そして、40V型(40J9X)以外の3モデル(50Z9X/58Z9X/65Z9X)にエリア駆動によるローカルディミング(部分減光)の手法を与え、劇的なコントラスト向上に基づく高画質化を図っているのだ。4K高解像度に見合うオーバーオールの画質性能を磨こうとする東芝の本気度がうかがえる展開といっていいだろう。
家庭用液晶テレビの開発においては、バックライトを装備した液晶パネルの供給を受けるのが一般的だ。しかし東芝は、昨年の秋冬モデルの「Z8」シリーズ(フルHDタイプ)から液晶パネルのみを調達し、自社開発のLEDバックライトモジュールをパネル直下に組み合わせる作戦に出た。この手法を採ると開発コストは飛躍的にかさむはずだが、液晶テレビの画質改善に根本から取り組むため、あえてこの作戦に出たのだろう。
その目的は3つ。1つはパネル直下に置くことでLEDの数を増やして明るさを稼ぐこと、2つめが直下型ならではのLEDのきめ細かなローカルディミングによってコントラストを飛躍的に高めること、そして3番目が広色域なLEDバックライトを採用することで色再現を向上させることである。
明るさについては、昨年の4Kモデル「Z8X」に比べて75%アップの700nit(1 平方メートル当たりの輝度単位=700カンデラ)を実現しているが、それに加えて画面の明るい部分のピーク輝度を復元する「きらめきLED エリアコントロール」と、ガンマカーブを適応的に制御して撮影時に圧縮されたハイライト部分の伸びを復元する「ハイダイナミックレンジ復元」という2つの手法を盛り込み、白の輝きと明部の階調表現を両立させている点にも注目したい。
液晶テレビの弱点といわれ続けてきた色再現については、色域の広いLEDバックライトの採用とカラーフィルターの最適化で広色域化を実現している。同様の手法を採った昨秋のフルHD機「Z8」シリーズよりもさらに色域は広がっており、昨年の4Kモデル「Z8X」よりも約30%色再現範囲が拡大され、デジタルシネマの技術標準化団体であるDCIが定めた色域をほぼ満たす表現力を身につけたという。
それに加えて、「Z9X」シリーズの色再現アプローチで個人的にもっとも興味をひかれるのが“最明色”(さいめいしょく)コンセプトの導入だ。Z9Xは先述の通り、ハイビジョン規格のITU-R BT.709よりもはるかに広い色域を有しているわけだが、ただやみくもに広色域の映像を映し出しても「現実世界にはあり得ない奇妙な色」になる危険性がある。
そこで東芝技術陣が注目したのが「光の反射によって得られる物体色には、物理的な鮮やかさの限界がある」という科学的知見であった。その限界を超えると「反射」ではなく、その物体自体が光って見えるようになる。つまり不自然な色になってしまうわけだ。各色によって異なるその限界値を“最明色”と呼ぶのである。
そこで東芝技術陣は、同社総合研究所が開発した業務用カメラを用いて光学測定した色の学習テーブルを参照しながら、64軸の色相に明度と彩度を掛け合わせた6144ポイントの3次元色空間座標において、すべての色の物体色の限界を考慮した広色域復元データベースを構築していったのである。
昨秋のZ8シリーズから導入されたこの最明色コンセプト、あまり世間の注目を浴びていないようだが、これからのテレビの色の見せ方を考えるうえで実に重要な提案になるのではないかと思う。Z9Xではすべての映像モードの設定にこの最明色コンセプトに基づく広色域復元データベースが活用されている。つまり店頭用の「あざやか」モードにおいても、不自然な派手な色になることのないように注意深く画質設定されているわけである。こういうところに東芝という会社の奥深さ、レグザの成熟を実感してしまうのは筆者だけだろうか。
Z9Xを使用する際、部屋の照度や内装色、再生コンテンツに応じて画質を最適化してくれる「おまかせ」モードを用いることをまずお勧めするが、もっと高画質を追求したいという欲張りなユーザーに向けて、さまざまな映像モードが用意されているのはいうまでもない。とくに興味深いのは、映像のプロがスタジオで使うマスターモニター画質を目指した「モニターD93」「モニターD65」モードが新設されたことだろう。前者はテレビ素材向け、後者は映画素材向けにチューニングされた、とびきり素直なマスター画質である。
また、レグザ独自のコンテンツモードもより細分化された。とくに4Kマスタリングされた最新映画Blu-ray Disc向けの「4KマスターBD」に加えて「4Kネイティブ」モードが加わったことに注目したい。これはもちろん来るべき4K放送に合わせて設定されたモードで、この 6月から始まる4K試験放送でぜひその画質を精査してみたいと思う。
●フル12bit信号処理の「ピュアダイレクトモード」
58V型の「58Z9X」の画質をじっくりチェックしてみたので、そのインプレッションをお伝えしよう。
メタルフレームの幅を上下左右すべて15ミリの細さに統一した、そのすっきりとしたアピアランスがまず好ましい。世界でいちばん厳しいというヨーロッパの転倒防止基準に合わせてコの字に組んだ2本脚スタンドも、以前の1本脚スタンドに比べて格段に視覚的安定感がある。
まず内蔵チューナーによる地デジの放送画質を「おまかせ」モードで確認してみた。ナチュラルな色再現とコントラストの鮮やかさとともにおっと思わせるのが、じつにすっきりとした輪郭描写だ。とくにテロップの周囲に生じがちなジラジラしたノイズがほとんど目立たないところに注目したい。入力信号のエッジ部と平坦部の特徴を検出し、とくに地デジで目立ちがちなブロックノイズやモスキートノイズを効果的に除去するとともに、エリアごとに超解像処理を加えて鮮明さを向上させる新しい手法が盛り込まれたことが効いているのだろう。
部屋を暗くし、映像メニューから「映画プロ」を選び、コンテンツモードを「4KマスターBD」に設定し、昨今重用している高画質映画BDをいくつか観賞してみたが、その画質が実にすばらしかった。
アンソニー・ホプキンス主演の「ヒッチコック」は色彩演出に見るべきところの多い映画だが、「サイコ」のヒロイン役ジャネット・リー(スカーレット・ヨハンソン)とレストランで打ち合わせをするシーンなど、そのつややかな色の美しさと繊細なタッチのディティール描写、そしてすっきりとヌケのよいスキントーンの見事さに声もなく見ほれてしまった。この何ともいえない品格の高い4Kアップコンバート映像は、従来の液晶テレビの常識を破るものといっていいだろう。REGZA史上最高画質であることは間違いなく、先月の本欄で採り上げたソニー「X9500B」シリーズに好ライバル出現との思いを深くした。
今回の視聴では、BDレコーダーの最高画質モデルであるパナソニック「DMR-BZT9600」を用いたが、ふと思い付いてBZT9600の色差4:4:4(Y/Pb/Pr)各12ビット信号をHDMI出力し、本機の1080p画質モードを「ピュアダイレクト」に設定してみた。この状態で観た米国盤BD「インサイド・ルーウィン・デイヴィス~名もなき男の歌」の画質がとてもよかった。
この映画は、数々の名作・佳作を監督してきたコーエン兄弟最後のフィルム収録作品といわれている最新作で、1961年のニューヨークを舞台に売れないフォークシンガーを主人公にした、ちょっと不思議なテイストの映画だ。輪郭強調をまったく感じさせないマスタリングも見事で、独得の立体感が醸しだされ、実に味わい深い。冒頭のコーヒーハウスでルーウィン・デイヴィスがギターの弾き語りをするシーンを観たが、薄暗い室内の階調情報が豊かに提示され、その精妙な映像造形力に息をのんだ。
Z9Xの映像信号処理回路は、前段に1080p信号用の「レグザエンジンCEVO」、後段に4Kアップコンバートなどを司る「レグザエンジンCEVO 4K」を置いた2段構成だが、前段の「レグザエンジンCEVO」の信号処理は10bitに制限されてしまう。「ピュアダイレクト」というのは、レグザエンジンCEVOを飛ばして、12bit信号処理の「レグザエンジンCEVO 4K」にダイレクトに入力するモードで、フル12bit信号処理が可能になる。そのメリットは、「インサイド・ルーウィン・デイヴィス~名もなき男の歌」の冒頭のような、微妙な階調表現力が要求される場面でおおいに威力を発揮することが実感できた次第だ。
理想の4K画質を追求した東芝「58Z9X」の画質インプレッションは以上だが、REGZA ならではの全録機能「タイムシフトマシン」により洗練された4K番組表が加わり、いっそう使いやすくなったこともぜひ付け加えておきたい。
画面下の狭ベゼルにスピーカーが配置された本機の音質は、液晶テレビの平均水準といえるレベルで特筆すべきものではない。本機の卓越した4K画質に音をバランスさせるには、まず両脇に良質な小型スピーカーを設置させることから始めたい。本機の画質品位に見合うサウンドバーや台座スピーカーは現在のところ存在しないと最後に断言しておこう。