モバイルに関連した大型ニュースが相次いだ、5月26日から6月6日の2週間。5月30日には、ファーウェイ・ジャパンがSIMフリースマートフォンを投入することを明かした。MVNOがにわかに活況を呈する一方で、端末の選択肢、特にLTEに対応した端末の選択肢はまだまだ少ない。こうした中で投入される端末だけに、注目を集めた。
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海の向こう米国・サンフランシスコでは、6月2日にAppleが開発者向け会議「WWDC」を開催、秋にリリースされる「iOS 8」の概要がキーノートスピーチで公開された。同様に、Apple関連のニュースとしては、ドコモがiPadシリーズの取り扱いを開始することも大きな話題を集めた。今回の連載では、この3本のニュースを取り上げ、ユーザーや業界に与える影響を考察していきたい。
●HuaweiとMVNO、両者の思惑が合致したSIMロックフリー端末の投入
ファーウェイ・ジャパンは、5月30日、LTE対応SIMフリースマートフォン「Ascend G6」を発売すると発表した。IIJ(ビックカメラグループ)、エディオン、ダイワボウ情報システム、ノジマ、U-NEXTといったMVNOや家電量販店などが取り扱いを表明しており、6月下旬以降に店頭に並ぶ見込みだ。
Ascend G6は、2月にスペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress」で発表されたスマートフォン。フラットなボディと金属を使った質感の高さが評判を呼んだ「Ascend P6」からデザインのテイストを受け継ぎ、ミッドレンジながらLTEに対応させた。中国市場などで人気の高い、高画素のインカメラも搭載。画素数は500万で、顔をよりキレイに補正する「ビューティーモード」にも対応する。
Huaweiは、元々ODMメーカーとしてシェアを伸ばしていたが、2013年のMWCでは「Make it Possible」というキャッチコピーを掲げ、自社ブランドを強化する取り組みを発表。2014年のCESやMWCでも、ブランド認知度が世界各国で共通して上がっていることや、オープンマーケットでの比率の向上が13年度に30%から50%に上がったことをアピールしていた。
基地局やコアネットワークのベンダーでもあるHuaweiは、端末をキャリアにセットで販売し、その価格の安さがシェアを後押しした経緯がある。そこではメーカーの名前も、端末のブランドも重視されない。厳しい言い方をすると、端末はネットワークの“オマケ”ということになる。このようなポジションから脱却したいというのが、同社の思惑だ。そして、上記のようにスマートフォン時代に入り、グローバルでの成果は着実に上がっている。
日本でのSIMフリーモデル投入も、こうした戦略の一環ともいえる。ファーウェイ・ジャパンの担当者は「ODM生産からAscendをはじめとした自社製品の展開にフォーカスを移しており、グローバル市場においてオープンマーケットを通じた製品の販売を強化している」と話す。特に欧州やアジアでは、キャリアモデルと並行して、オープンマーケットでメーカーが独自に端末を販売するのが一般的だ。ファーウェイ・ジャパンの担当者が「MVNO利用者が急速に増加し、SIMロックフリー製品に対するニーズが拡大している市場の変化にいち早く対応することを目的としている」と述べているように、こうしたオープンマーケットは、MVNOの台頭によって日本でも徐々に立ち上がりつつある。
ただし、こうした販売方法だと、キャリアモデルとは異なり、割賦販売と毎月の割引をセットにした“実質価格”は打ち出しにくい。相対的に割高に見えてしまうのが実情だ。例えば、SIMフリーで発売されたiPhone 5sを見ると、16Gバイト版で価格は7万3224円(税込)。実質0円や、場合によってはキャッシュバックがつくキャリアのiPhone 5sと比べると、いくらSIMフリーとはいえ手が出しづらい。iPhone 5sより安価な設定のNexus 5でも、16Gバイト版が4万937円(税込)だ。より安価な製品もあるが、LTEに対応していないなど課題も多い。
一方でAscend G6は、LTEに対応していながら、希望小売価格が3万2184円(税込)と割安だ。「手に届きやすい価格設定で、付加価値の高い製品ラインをいち早くSIMフリーで投入する」というファーウェイ・ジャパン担当者のコメントからも、端末の価格を他社より手ごろにして競争力を持たせたことがうかがえる。
ファーウェイ・ジャパンはAscend G6に続き、フラッグシップモデルの「Ascend P7」や「MediaPad X1」などのタブレット、そしてMWCで発表されたウェアラブル端末の「TalkBand B1」を順次発売していく方針だ。このように本格的なSIMフリー端末の投入に踏み切ったHuaweiだが、キャリアのモデルも継続していくようだ。ファーウェイ・ジャパンの担当者は「2つのチャネルで製品展開をすることで、選択肢を増やし、多様化が進む日本のお客様のニーズに応えたい」と述べている。
Ascendシリーズは、これまでもドコモを通じて提供されてきたが、結果は惨敗だった。一方でドコモの「キッズケータイ」が100万台を突破したり、「dビデオ」の普及を目的とした「dtab」が話題を呼ぶなど、キャリアとの取り組みでは成功例も増えている。また、イー・モバイルの「STREAM X」も、通信料とのセット価格の安さが功を奏し、販売は好調だった。逆にいえば、Ascendシリーズのブランドが日本市場でまだ定着していなかったからこそ、SIMフリー市場に対して迅速に動けたとも考えられる。キャリアのラインアップが絞り込まれていく傾向にある中で、Huaweiに続く大手メーカーも現れるかもしれない。
MVNOにとっても、SIMフリーモデルの拡大は追い風といえる。5月28日に開催されたワイヤレスジャパンでは、IIJの常務執行役員 ネットワーク担当部長 島上純一氏がMVNOの課題の1つとして「端末の確保」を挙げ、「ワンストップ型でお客様に安心感を提供しなければならなくなる」と今後を予想していた。同様の声は、ほかのMVNOからも聞こえてくる。自社で端末をODMを活用して安価な製造したり、キャリアモデルの型落ちを調達したりと、さまざまな工夫はされているが、決め手に欠けていたのがMVNOの現状といえるだろう。こうした中、HuaweiのようにSIMフリー端末の拡充にメーカーが本腰を入れれば、取り組みの幅にも広がりが出そうだ。
●大幅な“規制緩和”でより自由になった「iOS 8」
6月2日に、Appleは開発者向け会議「WWDC」を開催した。キーノートにはCEOのティム・クック氏らが登壇。この秋に登場する「iOS 8」の主な機能や、開発者向けの施策を発表した。例年であればiPhoneやiPad、Macなど、何らかのハードウェアもお披露目されていたが、今年のWWDCのキーノートでは、これらは一切登場しなかった。
プロダクトマーケティング担当のフィル・シラー氏も、キーノートに登壇しなかった。ウワサされていた「iWatch」などもなかったが、もともとWWDCは開発者がiOSやMac OS向けのアプリ開発を学ぶ場ということを考えると、これはむしろ自然なこと(もちろん、アプリに大きな影響を与えるハードウェアであれば、必ずしもその限りではないが)。ある意味で、原点回帰のWWDCといえるのかもしれない。
ハードウェアの発表がなかった半面、iOS 8はiOS 7から大きな進化を遂げている。フラットデザインにデザインを刷新したiOS 6からiOS 7への進化よりも、大きなステップアップに感じられた。こうしたiOS 8の新たなテーマを一言で表すとすれば、それは「規制緩和」だ。
特に日本のユーザーにとって影響の大きな変更点は、サードパーティ製のIME解禁だろう。iOS自体のキーボードが英文の予測変換に対応することに加え、新たにキーボードをアプリとして変更できるようになる。Androidではおなじみではあるが、文字入力に対する不満が高かったiOSではユーザーに待望されていた機能。日本のアプリ開発者も、早速検討を開始している。
同様に、サードパーティに対して、ウィジェットも解放する。Androidとは異なり、ホーム画面に貼り付ける形ではなく、通知に組み込まれたもので、従来はApple純正アプリのみがここを使用できた。ここが解放されることで、アプリメーカーにとってはチャンスが広がる。ユーザーにとっても、カスタマイズの幅が広がることになりそうだ。
アプリ同士の連携で、使い勝手が向上することも期待できる。Androidには「インテント」と呼ばれる仕組みがあり、アプリ同士が連携できた。例えば、ブラウザで検索をし、特定のURLをタップしたとき、それに対応したアプリをインストールしていると、ブラウザでそのまま開くか、情報をアプリに引き継ぐかを選択できる。ブラウザでTwitterの情報をタップして続きをTwitterクライアントで見たり、Twitterで見つけた2chの情報を2chビュワーで見たりといったことが、簡単にできた。これに近い機能が、iOS 8に実装される。
WWDCのデモではブラウザから「bing翻訳」を呼び出し、サイトの言語を丸ごと変えるデモや、写真加工を別のアプリで行うデモが行われていたが、これを見る限りインテントに近いことがiOSでもできるようになると考えてよさそうだ。1つ1つのアプリに情報が閉じていたこれまでのiOSと比べ、格段に自由度と操作性が高くなる。
こうしたAPIの追加があった上で、Appleは開発者用の言語を「Objective-C」から「Swift」へと変更する。ユーザーにとって直接的なインパクトはないかもしれないが、アプリ開発のハードルが下がることで、現在900万開発者がさらに増えることは期待できる。結果として、アプリの数の増加にもつながりそうだ。
このほか、Touch IDの開放やiCloudの強化、家電連携のプラットフォーム「HomeKit」、健康管理のプラットフォーム「HealthKit」の導入など、iOS 8での進化は多岐に渡る。そのいずれもが、単なる機能拡張ではなく、サードパーティの参加を促進するものであることが、iOS 8の大きな特徴だ。Androidに対して数では劣勢に立たされているが、アプリの充実度や完成度といった点はiOSの強みになっている。ここを拡張して、エコシステムをさらに強固にするのはアップルにとって自然な戦略ともいえるだろう。
●ドコモがiPadを導入、「パケあえる」との相乗効果も期待
WWDCでiOS 8の発表を行ったAppleだが、日本市場では別のカードを切ってきた。それが、ドコモへのiPad導入だ。ドコモは、2013年9月にiPhone 5s/5cを導入し、iPhoneの取り扱いを開始した。一方で、iPadに関しては「相手のあることなので」(代表取締役社長 加藤薫氏)と言及を避けていた。Windowsを搭載した8インチタブレットなどの攻勢があり、以前よりシェアは落としているものの、日本市場でのiPadのシェアは依然として高い。法人での導入例も多く、この分野に強いドコモにとっては、必要不可欠な端末だった。
ドコモの加藤氏は、夏モデルの発表会でタブレットについて「大きな位置を占める。そのために魅力的なタブレットを出した」と述べており、6月から新たに導入した料金プランとの相乗効果を期待していた。新プランの目玉の1つが、パケット通信量を家族または2台目以降の端末と分け合うことができる「パケあえる」。夏モデルでは「Xperia Z2 Tablet」や「AQUOS PAD」がラインアップされているが、ここにiPadが加わることでさらに厚みを増した格好だ。
実際、シェアプランを活用すれば、「iPad Air」や「iPad mini with Retinaディスプレイ」を安価に運用できる。2台目の端末として「データプラン(スマホ/タブ)」を契約して、1回線目とパケット通信量をシェアする「シェアオプション」をつけると、料金は2376円(税込)。ここにISP代の「spモード」を加えても、合計は2700円(税別)だ。最も安いiPad miniの16Gバイトモデルで月々サポートが2295円発生する(ここでは料金の条件を均等にするため、月々サポートを税別で表記した)ため、2台目にかかる料金は405円ということになる。iPad mini 16Gバイトモデルを24回の割賦で購入しても、毎月の支払い(端末代)は3000円もかからない。
とはいえ、iPad AirやiPad miniの発売から半年以上が経過しているため、“次期iPad”を待った買い控えが起こる可能性はある。また、ドコモのiPad導入を察知してか、KDDIやソフトバンクは先行してキャンペーンを実施しており、どちらの端末とも実質価格はドコモが販売するiPadを下回っている。すでに購入しているユーザーもいるため、他社からユーザーを奪ってくる効果は限定的になりそうだ。新料金プランとの相乗効果がどこまで効いてくるのか、発売後の動向は引き続き注視したい。また、従来は2割程度といわれていた、モバイルデータ通信対応タブレットの市場がどこまで広がるのかも注目しておきたいポイントだ。
ドコモからiPadが発売されたことで、iPhoneに続き、iPadも3キャリアで横並びになった。iPhoneと同じ流れだとすると、iPadのSIMフリー版投入も予想され、キャリアにとってはタブレットでの差別化も難しくなった。Xperia Z2 TabletやAQUOS PADのような高価格帯でブランド力が比較的強いタブレットだけでなく、より低価格帯のタブレットや、Windowsタブレットを投入するなど、今までとは別の軸を持ったラインアップも必要になってくるだろう。