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魅惑の灯りとともに――真空管を搭載したヘッドフォンアンプ3機種を聴き比べ - だっぢゅニュース

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2025.08.05|コメント(-)トラックバック(-)

魅惑の灯りとともに――真空管を搭載したヘッドフォンアンプ3機種を聴き比べ


 ヘッドフォンを愛用し始めると、もう少し音が良くならないものかと欲が出てくる。iPhoneやiPad、ポータブル機器で使う限り、内蔵されたアンプには限界があるからだ。音質しかり、音量しかりである。そんな時のお役立ちグッズがヘッドフォンアンプであることは、本誌の読者なら先刻ご承知の通りである。だからここでその効用について触れるつもりはないが、最近の傾向としてこのアンプに真空管を採用する例が増えている。なぜ真空管なのか、どうしてこんなに面倒くさいデバイスを使っているのか、ちょっと興味が湧く。

【その他の画像】

 というわけで今回は、真空管を採用したヘッドフォンアンプを集め、といっても3機種だが、それぞれの製品の特徴を探るとともに音質を確認してみた。取り上げたモデルは、オーディオテクニカの「AT-HA22TUBE」、キャロット・ワンの「FABRIZIOLO EX」(ファブリジオーロ)、フォステクスの「HP-V1」である。

●オーディオテクニカ「AT-HA22TUBE」

 オーディオテクニカの「AT-HA22TUBE」は、この中で最も大型。既発売のヘッドフォンアンプ「AT-HA21」のシャーシを流用しコストを抑える合理的な物作りを行い、吸収した予算を音質に係るところに計上した力作である。製品のイメージとしては「AT-HA21」のプリ部に真空管が加わった感じだが、安易に真空管をプラスしただけではない。

 その最たるものがシャーシからにょっきっと首を出した2本の「E-88CC」だ。「12AX7」に相当するこの真空管は双三極管と呼ばれる内部構造を持ち、通常なら1本でステレオ回路をまかなえる。にもかかわらず2本採用したのは並列に接続してSN感を高めるためだ。開発に1年半も費やしたのはそうした条件を満たすためにさまざまなトライアルを行ったからでもある。「真空管をスロバキアのJJ製に決めたのは音質と安定供給という観点からです」とオーディオテクニカ、コンシューマ企画課の高橋俊之さんは話す。

 しかしながらせっかくの真空管がアルミダイキャストのプロテクターに覆われていて良く見えませんなぁとの問いに、「本当はもっと真空管をアピールしたかったんですが、60センチの落下試験という社内の安全規格をクリアするためにカバーが必要でした」。なるほどそうした理由がちゃんとあったんですね。

 プレートにかかる電圧は約60ボルトだというから、一日3~4時間の使用で7~8年使うことができる。真空管のソケットに磁器製品を用いているのもノイズ対策と長期に渡って特性をキープするためであり、レンジ感の広いハイレゾ音源を主体に楽しんでほしいという彼らの思いが込められている。

●キャロット・ワン「FABRIZIOLO EX」

 キャロット・ワンの製品は以前にもこのページでも取りあけたことがあるのでご記憶の読者もおありのことだろう。その時はDクラスのパワーアンプを内蔵したエルネストーロだったが、今回はヘッドフォンアンプのファブリジオーロEXだ。いずれもニンジン色のシャーシの上に真空管がぴょこんと飛び出した独特のデザインが目を引く。

 キャロット・ワンの「FABRIZIOLO EX」は「FABRIZIOLO」をベースにしたエクスクルーシブ・エディションすなわち、リファイン・バージョンである。物作りの姿勢は、前回の記事も参照にしていただきたいが温故知新が盛り込まれ、ノスタルジーに浸ることなく新しい音作りを狙っている。加えてこのリファイン・バージョンのリリースには2つの理由がある。1つは似て非なるそっくりさんの登場、そしてもう1つはこのモデルのさらなる可能性の追求である。ブルーの塗色のコピーものが出回ったことに危機感を抱いた日本の輸入元であるユキムが、価格を度外視して作り上げたのがEXエディションだ。

 彼らが取った方法は、このモデルの音質の鍵を握る真空管を、「6DJ8」から「ECC-802S」という「12AU7」相当品に、そしてオペアンプをバーブラウン製に換えたほか、アンプそのものの基本性能を高めるため、全数真空管のバイアス電圧をそして左右のレベル差を国内でチェックして極めて偏差の少ないモデルに仕上げていることである。

 真空管はオーディオテクニカと同じくスロバキアのJJ製を採用している。ぼくはこのJJの品質レベルを把握していないので何ともいえないが、2社からそうした話を聞くにつれ、あなどれないメーカーであることが分かる。それにしてもどの分野にもコピー商品が出回ることに驚いてしまうが、この内容でこの価格設定なら追従することは無理だろう。正規モデルの意地とプライドが発揮された新製品だ。

●フォステクス「HP-V1」

 フォステクスの「HP-V1」は、前出の2モデルとは若干自出が異なる。前2機種がホームでの活用を前提にしているのに対し、フォステクスの「HP-V1」はポータブルでの使用を前提に作られているからだ。サイズは「FABRIZIOLO EX」より大きいが、持ち運びに困るほどではない。

 そしてもう1つ、このモデルの大きな特徴はその真空管である。1950年代、まだトランジスタラジオが誕生する前、電池で動く真空管が開発された。屋外でもラジオを聴きたいというニーズに応えるため、低電圧で動作する真空管が作られたのである。もっとも当時は電池がとても高価でそれほど普及はしなかったようだ。わが家にも1台あったが、どこのブランドだったのかまでは覚えていない。それよりその後に父が買ってきた三菱電機製のトランジスタラジオの方がはるかにインパクトがあった。小さいくせに長波、中波、短波の切替付きで外部アンテナをつなげば、海外の放送まで受信できたことにも驚いた。

 電池管はトランジスタが普及するまでのわずかな時間を楽しいものにしてくれたが、その用途が限られていたので、自然に消滅したのである。ところがHP-V1には双三極管仕様の「6N-16B」という中国製の電池管が使われている。今となってはこうした製品でしか使い道がないはずなのに見事によみがえっていたのである。

 しかしながらHP-V1で注目すべきは、真空管よりその真空管の動作を支えるバッテリーだ。電池管といえども真空管はヒータを発熱させることで電子を放出する。そのためには長時間の動作を支える電源が必須であり、リチウムイオン電池の選択は10時間の使用を実現するための必要十分条件だったわけである。

 ところがここからが苦悩の連続だったという。そうした設計を行ったため、何度も安全規格取得のために監督官庁に足を運ぶことになったのである。発売が当初のスケジュールより大きくずれ込んでしまったのもそのためだ。そこまでしてポータブル型に挑戦したエンジニア魂に感心させられてしまうが、それにしても電池管を採り入れるなんて随分とマニアックな製品である。

●おじさんソフトで視聴してみよう

 試聴にはジョン・フォガティの最新アルバム「ロート・ア・ソング・フォー・エブリワン」から「フール・ストップ・ザレイン」を使った。久々におじさんソフトの登場だが、このアルバムはジョン・フォガティのソロ9作目となるセルフ・カバー作品でCCR時代にヒットした名曲がずらりと並ぶ。「フール・ストップ・ザレイン」はオリジナルアルバム「コスモス・ファクトリー」からの曲だが、ボブ・シーガーとのデュエットというのも泣かせる。

 オーディオテクニカの「AT-HA22TUBE」は、プロテクターがあるので真空管のほのかな灯りは、おしるし程度にしか漏れてこないが、ソケットにオレンジのLEDが仕込んであるのでこれが明るい光を放っている。この曲は珍しくフェード・インで始まり、アコースティックギターの音色とボーカルに付けられたリバーブがきれいに響く。それだけにSN感が悪いと透明感が出てこないが、このモデルはすっきりした表情を持ちながらも軽快なサウンドで落ち着きのある2人のボーカルを聴かせるしベースラインがしっかりしているので心地よい。

 キャロット・ワンの「FABRIZIOLO EX」は、エルネストーロ同様真空管のソケット中央部に配されたブルーのLEDが妖しく輝く。本体が小さいだけに真空管の存在が一際目立つが、サウンドも同様に目鼻立ちのしっかりした明るい表情が印象的だ。前作をリファインした効果が一層の明快さを引き出しているといってもよい。ボブ・シーガーとジョン・フォガティの声の違いも良く引き出す。

 フォステクスの「HP-V1」はポータブル型だけに真空管はシャーシ内部に収められているので、フロントに設けられたスリットからしかその存在は確認できないが、コンパクトなボディに似合わない伸びやかで丁寧な表現力に感心させられる。ボーカルのニュアンスも豊かだし空間の描き出しも大きい。

 冒頭でも触れたが、真空管は面倒くさいデバイスである。トランジスタと違ってヒータを熱しないと電子が飛ばないからだ。プレートにかける電圧は低くても発熱するし寿命がある。にもかかわらず使ってみたくなるのは、そこに人間臭い営みがあるのだからだと思う。

 フォステクスの製品には真空管時代を経験したスタッフが開発に携わっているが、オーディオテクニカもキャロット・ワンもポスト真空管世代のスタッフによって作られているということは、このデバイスには目に見えない魅力が潜んでいるということだ。いずれのモデルも長時間使っていると相応に温かくなる。これも真空管ならではの特性だが、その温かさが音の温度感と無関係ではなさそうだ。

 もっとも3モデルとも真空管が総てを支配するのではなく、総合的なまとめ方が音になって現れるから、柔らかくてほんわりとしたイメージを描いていると肩透かしを食う。真空管は使い方次第でフレッシュなサウンドを奏でることができるし、そうした部分に面白味があるとぼくは思っている。ここで取り上げたヘッドフォンアンプはいずれ期待に違わぬ再現力を備えているので、ぜひとも新しい音を発見する喜びを体験していただきたい。

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2014.06.01|コメント(-)トラックバック(-)
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