※この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
こんにちは、らしさラボの伊庭です。今回、リーダーシップのセオリーについて書いた本を出版しました。なぜ、セオリーなのか。それは、名曲と言われる曲のコード進行のほとんどが同じであるよう、部下をワクワクさせるリーダーシップにもセオリーがあり、ぜひそのセオリーを1人でも多くのリーダーに知ってほしいと考えたからです。
もし今、あなたが、部下をワクワクさせられずに悩んでいたとしても、まったく気にしないでください。最初に言っておきますと、リーダーに向き不向きは全く関係ありません。そのセオリーを実践しているかどうかだけですので、セオリーを実践すれば、確実にワクワクさせることができるのです。
私は、企業のリーダーへの研修と、その実践に向けてのコーチングを行っています。研修とコーチングをあわせると年間300回以上の機会を持っているのですが、そこで分かることは、部下に関心を持つリーダーは必ずといってよいほど部下のモチベーションのことで悩んでいるということです。
ゆえに、らしさラボの研修でもセオリーを紹介することになるわけですが、不思議なことにそのセオリー実践するだけで、とたんに部下の反応は変わり始めます。中には朝礼でスピーチをしたところ、大勢の部下から大きな拍手をもらい「一緒にやりましょう!」と声があがるということもあります。
そこには、輝かしい実績も無用ですし、また大声を張り上げる必要もありません。必要なのはセオリーです。そして、そのセオリーを書いたのが「強いチームをつくる!リーダーの心得(明日香出版社)」です。今回は、ここから最も重要なセオリーを紹介していきます。
●ワクワクさせるリーダーの心得とは?
必ず私がリーダーにする質問があります。それは、「あなたは、何のために今日も会社に行くのですか?」という質問。ほとんどのリーダーは、ここで困惑します。「業務があるから」「部下を管理しないといけないから」「営業目標を達成しないといけないから」「部下を育成するため」、だいたい、このような答えをひねり出されます。
そこで、私はこう続けます。「それは、あなたの任務ですよね。私が聞きたいのはあなたがリーダーとして、何に挑戦しているのかを聞きたいのです。それを部下は知りたがっています」と。
さて、この挑戦のことを「リーダーの使命」と言います。部下をワクワクさせるには、「リーダーの使命」は不可欠。使命こそが人、組織を動かす根拠となります。言い換えると、使命がないリーダーは、絶対に部下をワクワクさせることはできないのです。
でも、難しく考える必要はありません。では、さっそく使命の仕立て方を紹介します。まず、あなたの「この仕事にかける想い」を次の構造で整理をしてみてください。
【使命の構造】
「私は、[A]の人達が[B]のような状態になっていることを放置できない。[C]の状態にしなければならないと考えています。だからお願いです。力を貸してください。よろしくお願いします」(部下に頭を下げる)
使命のセオリーとは、この[A][B][C]を明確にしておくことなのです。では、さっそく、ポイントを解説します。
まず、[A]。誰のために頑張るのか。その時、Level4の視点で語ることで、部下からの求心力が高まります。次を見てください。
Level1 「I」の視点(組織目標の達成のため、頑張ってほしい)※組織目標=上司の目標。なのでI
Level2 「You」の視点(君たちの未来のために頑張って欲しい)
Level3 「We」の視点(私たちの未来のために頑張って欲しい)
Level4 「They」の視点(彼らの未来のために頑張って欲しい)
失敗で多いのは、Level1「I」の視点で語ってしまうこと。組織目標の達成は、上司に託された任務ですので使命として成立しません。また、Level2、Level3も悪くはないのですが、心を揺さぶる使命になりにくいという限界があります。部下が本当に知りたいのは、どんな未来予想図をリーダーは描いているのか。ぜひ、Level4で考えてほしいところです。
●部下から大きな拍手をもらった藤田さん
私のコーチングを受けた、求人広告会社の営業リーダーの藤田さん(仮名)も最初は「営業目標を達成させることが私の挑戦」と意気込んでいました。しかし、それは「任務」であり「挑戦」ではありません。
営業目標は達成できなければ失格です。ゆえに、目標達成は挑戦ではなく任務なのです。これは「人を育てる」ということも同様。人を育てられなければ失格。だから挑戦ではありません。挑戦とは、任務を超えたものであり、何が何でも成し遂げたいことを指します。
そして、何度も会話を重ねる中で、藤田さんは自分の経験の中から使命を見つけることとなります。それは、藤田さんが担当する会社の話。その会社は後継者が見つからずに、残念ながら廃業になったそうです。彼は、その時の社長の悲しそうな表情が忘れられないと言います。そして、その時に思ったそうです。「もっと、早く社長と出会って、求人のサポートができたら…」と。そこから、使命が仕上がったのです。藤田さんは部下を集めて、その使命を朝礼で語りました。
「私は、悔しい。この地域で何十年と頑張ってきた経営者が、後継者不足のために廃業せざるを得ない状態にある。絶対に安心してもらえる状態にしなければならないと考えています。だからお願いです。力を貸してください。1件でも多く、訪問活動をしてください。よろしくお願いします」
すると、営業所は、一瞬の静寂の後、次第に大きな拍手で包まれ、部下からも「やりましょう!」という声が上がったのです。
いかがでしょう。なぜ、大きな拍手がおこったのでしょうか。これは決して藤田さんだけではなく、私の研修やコーチングを受けたリーダーのほぼ全員に起こる出来事です。困っている誰かを救うために、本気になって頭を下げているのかが重要な点です。つまり、「どこを見て仕事をしている」リーダーなのか、そこに答えがあります。拙著では、50個のセオリーを紹介していますが、その中で最も重要なセオリーが、このLevel4の視点で「リーダーとしての使命」を語るということなのです。
●あなただけの「使命」の見つけ方
さて、使命を見つけるには、公の憤り(公憤と言います)を見つける必要があります。関心を「3つの不」にシフトしてみて下さい。3つの不とは、「不満」「不便」「不安」のことを指し、特にお客さま、もしくはお客さまになっていない人々の不に関心を持った上で、不を解消するための代弁者とならねばなりません。
お客さまに近い営業や接客のリーダーなら、スグにできるかもしれません。しかし内勤の場合は少し、大胆な行動が必要です。おすすめは、営業に同行させてもらう、もしくは実際に店頭に立ってみる、などの方法です。
実際に私のコーチングを受けたリーダーの中には、お客さまのもとに取材に行ったり、中にはお客さまの会社に出向き1日体験をした強者もいました。そこまでやると、部下はリーダーに本気の覚悟を感じることとなります。
まとめます。部下をワクワクさせるためには、Level4で使命を仕立てておくことです。そして使命を見つけるためには、お客さまやお客さまになっていない人の「不」を知ること。ここを意識しておくだけでも、覚悟が言動にあらわれてくることでしょう。
●著者プロフィール:伊庭正康
らしさラボ 代表取締役(セールスリーダー育成・トレーナー)。
1991年リクルートグループ入社。営業としては致命的となる人見知りを4万件を超える訪問活動を通じ克服。リクルート社においても珍しいとされるプレイヤー部門とマネージャー部門の両部門で年間全国トップ表彰4回を受賞、累計表彰回数は40 回以上。その後、営業部長、フロムエーキャリアの代表取締役を歴任。
2011年らしさラボを設立。営業リーダー、営業マンのパフォーマンスを飛躍的に向上させるオリジナルの手法(研修+コーチング)がリーディングカンパニーの目に留まり、年間260回の営業研修、営業リーダー研修、コーチング、講演を行っている。リピート率は91%。
また、ストレスコーピングコーチとして、ビジネスパーソンのメンタルタフネス強化の支援も行っている。近著には、『苦手な人がいなくなる(中経出版)』『強いチームをつくる!リーダーの心得(明日香出版社)』など多数。その活動は、日本経済新聞、日経ビジネス、など多数のメディアでも紹介される。
(ITmedia エグゼクティブ)