アスペルガー症候群とは、自閉症と同じ特徴をもつ精神的障害ですが、自閉症は2歳や3歳になっても言葉がなかなか出てこないのに対して、アスペルガー症候群の場合は話ができるため、障害に気がつくのが遅れるそうです。どちらの障害も大きく目立つのは(1)相手の心の動きが分からないために人間関係がうまく築けない(2)独自のこだわりを持っているために変化を嫌い、新しい環境に適応したり急な出来事に対処したりするのが難しい-の2点だそうです。3日に公開となったスウェーデン映画、アンドレアス・エーマン監督作品「シンプル・シモン」は、アスペルガー症候群の青年を主人公にしたラブコメディーです。
シモンは18歳。他人の感情を理解できず、触られることが大嫌いで、気に入らないことがあると部屋においてあるドラム缶を宇宙船に見立てて終日もぐり込んでしまいます。そこは彼がいちばんリラックスできる想像の宇宙空間だからです。そんなシモンの気持ちを理解できるのは、弟思いの兄サムだけでした。ある日、自宅でやはりドラム缶宇宙船にもぐり込んでしまったシモンを、サムは仕方なく恋人のフリーダと暮らしている新居につれていきます。しかし、フリーダはシモンの行動が理解できず、サムを見限って出ていってしまいます。失恋にうちひしがれるサムに新しい理想の恋人を探し出そうと、シモンが動きます。想像の宇宙空間に身をおいていたシモンは、こうして現実の世界に身をていしていくのです。
感情が世界を動かさない宇宙が大好きなシモンは、兄の新しい恋人も感情抜きの科学的な計算と分析によって探しだそうとします。アスペルガー症候群の視点から、この世界を改めて見つめ直した物語には、健常者でもふだん気が付かない新鮮な断面がいくつも観察できます。結局のところ、磁石のS極とN極は引かれ合うのが自然の摂理なのだと、物語は教えてくれています。(宝田茂樹)