米IBMの年次カンファレンス「IBM Impact 2014」が米国ネバダ州ラスベガスで開催されている。2日目となる4月29日の基調講演では初日に同社が掲げた「Composable Business」の内容とその具体的な事例がユーザー企業とともに紹介された。
●データから得る洞察を行動に即つなげよ
ここ数年来、IBMはクラウドやソーシャル、モバイル、データアナリティクスといった様々なキーワードを掲げ、ビジネスの変革によるさらなる成長や新たな成功の実現を企業顧客に提案してきたといえる。前日に引き続いて基調講演に登壇したMobileFirst担当ゼネラルマネージャーのマリー・ウィーク氏は、ユーザー体験、柔軟性のあるインフラ、行動可能な洞察こそがComposable Businessの成果を創造するものだと語った。
Composable Businessとは、ITを含めたビジネスに欠かせない色々な要素(ビルディングブロックなどとも表現している)を組み上げて新しいビジネスモデルを構築することだといい、その要素はAPIを通じてクラウドなどからも提供される。将来的にはメインフレームや基幹システムなどに長年蓄積されてきた情報なども加わっていくとしている。
ウィーク氏によれば、Composable Businessに対する企業の意識としては以下の動向がみられる。
・ビジネスプロセスの自動化が重要と考える企業は35%以上
・企業内に蓄積されたナレッジの活用が重要と考える企業は45%以上
・変革を実現する企業文化が重要だと考える企業は50%以上
・クラウドによるテクノロジーが重要だと考える企業は86%以上
IBM自身もまた、世界約40万人の社員の知見をソーシャルやモバイル、クラウドによって生かす基盤を構築し、ビジネスの変革を積み重ねてきたという。「だからこそ、IBMはComposable Businessに挑戦する顧客を手伝う」(ウィーク氏)
●地方発の家電店が狙う全米ブランド
Composable Businessを体現する事例として、まず米国インディアナ州に本拠を置く家電・住宅機器販売のhhgreggが登場した。同社でeコマース事業を担当する上級副社長のケビン・ライオンズ氏は、「地方の家電量販店というイメージを変えたかった」と話す。
そのために同氏は、モバイルアプリケーションを通じて消費者の顧客に新たな体験を提供することで関係を深め、全米に知られる同社のブランディングに取り組んだ。2013年のクリスマス商戦をターゲットに定め、約4カ月前からモバイルアプリのリリースとその強化に繰り返し、同社のブランド醸成を進めていったという。開発にはIBMのWorklightなどを採用している。
モバイルアプリ開発で重視したのは、顧客に商品選びを楽しんでもらうことだ。「ストレス無くショッピングできることは当たり前。顧客がどのタイミングで購入を諦めるのかといったさまざまなポイント分析し、UIの改善や操作性の向上などを繰り返し挑んだ。顧客にプッシュするだけでもいけない。顧客が自ら楽しんでくれる工夫もした」(ライオンズ氏)
ブランドが本当の意味で顧客へ浸透するには、それなりの時間を要するという。しかし同社の場合、4カ月という短い期間で達成するために、モバイルアプリではショッピングだけでなく、ユーザー参加型のゲームも加えた。アプリストアでのダウンロード数ランキングの上位にも食い込んだという。
その結果、2013年のクリスマス商戦におけるオンライン販売実績ではコンバージョン率が30%アップし、売り上げは80%もアップしたという。
「Webサイト以上の体験を顧客に提供できたことが成功要因だ。今では社内の業務プロセスも顧客中心に回るようになり、変革を実現することができた」とライオンズ氏。現在では顧客先での設置サービスも提供して“リアル”なシーンでの顧客満足度の向上に取り組む。日本ではおなじみのサービスだが、セルフサービスが当たり前という米国の顧客にとっては斬新なサービスに映っているようだ。
●遺伝子解析で薬の副作用を防ぐ新サービス
続いて登場したのは、Coriell Life Scienceという新興企業。同社は、医薬品投与を受ける人の遺伝子を解析して副作用などの影響を調べ、その情報を担当医師に提供することで正確な投薬を実現するクラウドサービスを提供する。
同社CEOのスコット・メギル氏は、「米国の高齢者は平均22種類の薬を処方される。薬の副作用による死亡は死因では5番目に多く、投与される薬の半分は全く効果がないとの調査もある」と話す。薬の副作用のリスクを可能な限り軽減することができれば、最終的に社会保障に必要なコストの大幅な節減にもつながっていく。
ただし、遺伝子情報は人間にとって究極の個人情報ともいえるだけに、セキュリティレベルを極限にまで高めなくてはならない。また、分析と分かりやすいレポートの提供にはたくさんのコンピューティングリソースも必要になるという。
そこで同社は、解析などのデータの処理にIBM Business Process Manager、データベースにCloudantのサービス、IBMのセキュリティソリューションなどを採用し、これらのシステムをSoftLayerのIaaS上に構築した。
「こうしたサービスは10年前では不可能、3年前でも非現実的といわれた。それが、今ではクラウドで実現できるようになった」
●インフラを忘れるべからず?
IBM インフォメーション&アナリティクス担当上級副社長のボブ・ピッチアーノ氏は、データを分析するだけではなく、即座に行動につなげられる洞察を得ることが重要だと説く。具体的には、各種のデータソースから気づきを得るだけでなく、データの間に潜む文脈もとらえて意思決定につなげ、迅速に行動を起こしていくという。
そのための新たな機能として、IBMのクラウドサービスに地理情報分析やデータベース、レポート、数値予測、モバイル活用型コンテンツ管理などが加わった。さらに同氏は、IBMがコードネーム「BlueInsight」という次世代型のデータ・分析サービスの開発に着手していることも明らかにしている。
基調講演の終盤には、IBM ソフトウェア&システムズ担当上級副社長兼グループエグゼクティブのスティーブ・ミルズ氏が登場。セッションでは一貫してzEnterpriseやSystem z、フラッシュストレージ、日本で24日に発表されたばかりのPOWER8プロセッサなどハードウェアがメインに取り上げられた。
同氏は、これら製品がクラウドやデータ分析の高速処理、洞察の提供に貢献するものであるかを説明し、「優れたインフラを選択することは優れた情報技術を得るに等しい。ワークロードがいかなるものでも、インフラの選択は大切な要素だ」と締めくくった。
Pulse 2014やImpact 2014でクラウドへのシフトをより鮮明に打ち出しているIBMだが、その根底を支えるのはIBM伝統のハードウェア技術であるというのが、長年ソフトウェア部門の“顔”であり続けている同氏ならではメッセージだったようだ。