“世界最速インターネット”のCMでお馴染みの「NURO 光」だが、かれこれサービスインから1年あまり。そのキャッチコピーは未だ変わらず現役だ。そんな、国内では唯一の下り最大2Gbpsを実現したFTTHサービスは、一体どのようにして生まれたのか? 現状や今後の展望も含めて、ソネットの取締役 執行役員専務 会田容弘氏に話を聞いた。
世界最速インターネット「NURO 光」のインタビュー画像
■世界最速インターネットはさらに速い回線を求める声から
――そもそもプロバイダーのソネットが、なぜキャリア事業を行うことになったのか。そのきっかけを教えてください。
私はソネットでプロバイダー事業の責任者をADSL時代からやっていました。その中でアンケートなどを通してお客様と接していると、いつの時代も変わらずに要望があったのが回線の“速さ”で、すでに光回線を使っているユーザーからもさらなる速さを求める声がありました。しかし、プロバイダー事業では回線の仕様やスペックを変えることはできません。そんなときに、たまたまある人物と出会い、「世界最速インターネットを実現できるかもしれない」という話を聞きました。
――それは、どのようなアイディアだったのでしょうか?
具体的にはNTTの光ファイバーを貸し出す制度を利用すること。それと、通信規格にGPONを利用することですね。現在日本で利用されているFTTHは、主に下り最大1GbpsのGE-PONという規格を利用しています。しかし、GPONを利用すれば、下り最大2.5GbpsのFTTHサービスを実現できると。そんな話が盛り上がって、NURO 光というサービスの輪郭が生まれました。
■初のキャリア事業+世界最速への挑戦
――世界最速を実現するには、どのようなハードルがあったのでしょうか?
日本にはGPONの大規模な導入事例が無かったので、ONU(ユーザー宅内に設置する回線終端装置)などの通信機器をゼロから作る必要がありました。そこで、メーカーに話を持ち掛けたのですが、「現状の光ファイバー以上の速度を求めるようなマーケットはあるのか?」と疑問視する声が大きかったんです。メーカーに何度も足を運んで、ユーザーニーズを理解していただくのには結構苦労しました。
――それはユーザーへのアピールポイントに通じるかもしれませんが、どのような材料でメーカーを説得したのですか?
先ほどもお話しましたが、プロバイダー時代に経験した“速さ”に対する根強いユーザーニーズですね。実際、光ファイバーを利用しているお客様からも、回線のさらなる高速化を求める声は多かったんです。それと、ネット上で流通しているコンテンツのリッチ化も挙げられます。例えば、日本は世界でも数少ないテレビでHD映像が観られる国ですが、一度この画質を体験したら、もうアナログ時代のSD画質には戻れませんよね。近いうちには4Kでのテレビ放送も開始する。高品質な音や映像を求めるというのは、人間の素直な欲求なんです。それは先に進みこそすれ、後戻りはしないでしょう。となれば、より大容量なコンテンツをやり取りするために、インフラを高速化するニーズは必ず出てくると。あとは、世界で一番いいものを作りたいという話をしましたら、技術者の方に「ぜひやってみたいと」言っていただけました。
――サービスインへの準備に掛けた期間を教えてください
構想に1年。そこから設備を整えて、試験を行うのにもう1年かかったので、合計で2年強ぐらいでしょうか? 他のキャリアさんのことは詳しく知りませんが、準備期間でも世界最速だったんじゃないかなぁと(笑)。ただ、やはり苦労もありました。局舎に機材を納入するときも、途中で選挙があったり、北朝鮮からミサイルが飛んでくるという噂があったりして。そういう期間は局舎工事ができないのですが、現場ががんばってくれて、何とか予定通りにローンチできました。
――それだけ急いだのは、タイミングとして早い方がいいという考えだったのでしょうか?
事業計画を立てたからには、できるだけ早く実現したかったというのが最大の理由ですね。市場ではADSLよりFTTHの方がマジョリティーなので、後発としてはいち早く世間に発表したかったというのもあります。
■速度アップの体感度は7割以上
――サービスインから1年以上が経ちましたが、手ごたえはどうでしょうか?
サービス開始当初にも公言しましたが、当初はなるべく早いタイミングでユーザー数を10万人まで増やすという目標がありました。テレビCMで認知度が高まったこともあって、月間の加入者数は1年で20倍以上に増えており、当初の予定を前倒しで達成できそうです。
――サービスインに当たっては、どのようなユーザーの加入を想定していたのでしょうか?
やはり、アーリーアダプター層に刺さるサービスだという自信はありました。ただ、ふたを開けてみると、幅広い層から弊社のサービスが支持されているようです。ONUに無線LANを内蔵したり、セキュリティーソフトを無料で提供していることやFTTHサービスの中ではコストパフォーマンスが良いことも大きいですね。先日ユーザーの方にアンケートを行ったのですが、満足度は8割を超えました。通信速度についても、7割の方から“速くなった”とご回答いただいています。
――加入者がハイペースで増えると、宅内工事を担当する業者への負担も大きくなるかと思います。現在はどのぐらいの日数で回線が通じるのでしょうか?
その時々で異なりますが、申し込みから開通までのリードタイムは、ほかの回線事業者に負けないように努力しています。実際に結構いいポジションにいるのではないでしょうか。
■NURO 光がゲーム環境を変える!?
――下り2Gbpsという高速回線をユーザーの方はどのように使っているのでしょうか?
使い方として圧倒的に多いのは音楽・動画のダウンロードやストリーミングですね。あとは、スマートフォンや最新型のゲーム機が普及したことで、複数の端末が同時にネットを利用するシーンが増えています。このような状況でも快適に通信できるのは、回線速度に余裕があるNURO 光の特徴ですね。
――ゲームといえばPlayStation 4が登場しましたが、何かアドバンテージはあるのでしょうか?
一番分かりやすいのはゲームのダウンロード速度ですが、もう一つ評価していただいているのが“SHARE”ボタンの機能です。これは、プレイ中継を他のプレーヤーに共有する機能ですが、アップロード速度が遅いと画質が悪くなってしまいます。その点、NURO 光はアップロード速度が速いので、この機能を快適に利用していただけます。
――今後の取り組みとして力を入れていきたいことは何ですか?
事業的には加入者数で10万人を達成することが、一つのマイルストーンだと思っています。その次は黒字化ですよね。これも、せっかくですから世界最速を狙ってみようかなと(笑)。ほかにも、お客様からは様々なご要望を頂いており、こうした検討課題に取り組んでいきたいと思います。
――ソネットはソニーのグループ会社ですが、サービス面での連携などは考えられるでしょうか?
4Kテレビやハイレゾウォークマンなど複数のネットデバイスとの連携などが考えられます。グループ会社に「アクトビラ」がありますが、例えば宅内工事でお客様の自宅にお伺いしたときに、テレビの設定を無料で行うのもアリかもしれません。
――ONUの無線LAN規格が11nまでですが、11acへの対応はどうでしょうか?
ユーザーアンケートを見ると、NURO 光に乗り換えても、まだまだ回線の高速化を望む声はあるんです。そういう意味では、11acへの対応も検討しなくてはと思っています。
――WiMAX 2+やLTEの高速化などは、競争相手ととらえているのでしょうか?
モバイルシーンでのニーズを拾い上げることも重要視しています。ソネットでもモバイルルーターやSIMなどを提供していますが、これらとNURO 光とのパッケージングはぜひ検討したいですね。
世界最速を目指すというDNAから始まったNURO 光。インタビュー中で会田氏は、今後も“世界で一番○○”に挑戦していきたいと度々コメントした。ソニーらしいチャレンジスピリッツを受け継ぎながら、次はどんな世界一を実現するのか? 今後もNURO 光のサービス展開に注目していきたい。