海外でも人気の日本発漫画・アニメを原作にしたミュージカル「2.5次元ミュージカル」を世界に広げようという動きが始まっている。目指すは「欧米のミュージカルに匹敵する、日本発の世界標準エンターテインメント」。このほど、制作会社やコンテンツ関連企業が参加する団体も発足。国内の盛り上げに加え、海外展開にも業界でチャレンジしていく。
【観客動員数と上演タイトルの推移】
「2.5次元ミュージカル」は、漫画・アニメを原作とするミュージカル。「2次元」の漫画・アニメと「3次元」のリアル舞台の中間として、ファンから自然発生的に名付けられたという。「美少女戦士セーラームーン」や「テニスの王子様」などがよく知られている。
5月29日夜、「日本2.5次元ミュージカル協会」が設立趣旨や今後の展開を説明するセミナーを都内で開催した。同団体は3月の「AnimeJapan 2014」で設立を発表。国内での普及・発展や積極的な海外展開にジャンル全体で取り組むのが目的だ。代表理事は「テニスの王子様」「美少女戦士セーラームーン」などの舞台を制作するネルケプランニングの松田誠社長が務め、理事にはホリプロの堀義貴社長、マーベラスAQLの中山晴喜会長らが名を連ねる。
●女性人気が高い2.5次元ミュージカル
2.5次元ミュージカルの歴史は、宝塚歌劇団による「ベルサイユのばら」(1974年)にさかのぼる。セーラームーンやテニスの王子様のほか、「魔法使いサリー」「姫ちゃんのリボン」「NARUTO」「忍たま乱太郎」「薄桜鬼」「弱虫ペダル」──など、ジャンルを問わず多くの作品が舞台化。2000年代後半から急速に拡大しており、昨年の上演タイトルは約70タイトルに上り、延べ160万人超を動員した。
既存の演劇ジャンルと比べ、(1)人気作品をフックとして普段劇場や舞台に足を運ばない人が訪れている、(2)物販の売り上げが多い、(3)パッケージ販売やパブリックビューイングなど映像としての2次利用が盛ん、(4)キャラクターやストーリーの引きが強く、出演俳優の知名度に左右されるスターシステムと異なる――などが挙げられるという。
舞台化する原作について、マーベラスAQLの中山会長は(1)女性人気が高いこと、(2)出演キャラクターが多く、それぞれに個性がありファンがつきやすいこと──などを挙げるように、現在の観劇者の多くは女性。「男性向けのものに以前挑戦したが、難しいところも多かった。2時間で6000円払って何も残らないのは寂しいと言われてしまうと……」。
実際の舞台で上演するライブコンテンツという性質上、デジタルデータでコピーされにくいのも大きな特徴だ。昨夏に上演した「美少女戦士セーラームーン」は観客の2~3割を外国人が占め、観劇のために来日した人も見られたなど、海外からの観光客流入も期待できるのではとする。映像作品としてパッケージ販売もする以上、ネットに転載されてしまうのは完全に防ぐことは難しいが、「数字では分からないが、『ネットで見て気になって本物を見に来ました』という層も多いと思う」(松田代表理事)という。
●日本発の独自ジャンルに
日本はニューヨーク、ロンドンに続く世界第3のミュージカル市場。だが、上演されている多くが欧米の作品だ。「仮に興行的に失敗してもブロードウェイやウェストエンドは絶対に儲かる仕組み。このままではお金を収め続けるだけ」(ホリプロの堀社長)──こんな現状への危機感も、2.5次元ミュージカルで世界に打って出る背景にはある。
日本の漫画・アニメは世界に数多くのファンがいる優れたコンテンツだ。これを手がかりに、便宜上ミュージカルとしながらストレートプレイも含んだこのジャンルを「欧米のミュージカル市場に匹敵する、日本が産んだ独自ジャンルとして確立したい」(松田誠代表理事)と意気込む。
「日本2.5次元ミュージカル協会」の設立は、各社単独ではなく、同協会が包括して情報の窓口となることで、2.5次元ミュージカルの普及を支援するのが狙いだ。具体的には、(1)海外向けに演目カタログを作成し、劇中曲目、必要な役者やスタッフの数などをパッケージ化して紹介、(2)日本文化を発信する海外コンベンションへの参加、(3)海外公演やライセンスビジネスの展開――などに取り組む。
海外公演は、日本人キャストがツアーとして赴く形式はもちろん、将来は現地で独立して上演してもらい、ロイヤリティー収入を得る形が理想だ。「中国やアジアの新興国は『劇場はあるが上演するコンテンツが不足している』というパターンも多く、若年層にリーチする演目として日本のアニメや漫画の魅力は大きい。海外からの問い合わせや、上演を求める直談判も少なくない中、協会として取りまとめることで、より強力にスピード感を持って推進していきたい」と松田代表理事は自身の実感も含めて説明する。
ホリプロは、当初から世界展開を視野に入れた「DEATH NOTE」を来年、韓国と共同制作する予定だ。ブロードウェイの一流クリエイターもスタッフとして招き、同作品の世界的な人気を追い風に、アジアや欧米への展開を図っていく。発表当初から反応が大きく、堀社長は「ネットでは『ホリプロ本気か』という声もありましたが、一応……本気です」と、期待に応えたいと話す。
国内の盛り上げも課題だ。国内の演劇鑑賞人口は約1%と言われており、「99%の人が日常的に触れていないということ、まだまだ市場は広い」(松田代表理事)とファン層を広げていく方法を模索する。
「日本の演劇ファン全体を見ても、やっぱり夢を買ってくれるのは圧倒的に女性」と、今は女性向け作品が多いが、男性やシニア・キッズ向け作品にも取り組んでいきたい考え。「男性が買いたくなるような夢も作りたい、頑張ります」(同)。
●「まずは民間でがんばろう」
政府主導で「クール・ジャパン」政策も進む中、松田代表理事は「政府とは情報交換はしているが、まずは民間で頑張ろうという気持ちが強い。演劇自体がお客様からいただいたお金でいいものを作る行為なので、支援ありきでやりたくはない」とする。
ホリプロの堀社長は「むしろこちらから国を動かしていくような気持ち。役人はまだ気付いていないが、関わるパートナーも多い総合エンターテインメントとして、成長すれば確実に大きな市場になる。説明する労力をかけるくらいなら、スケールメリットを見せて振り向かせたい」と意気込んでいる。