
危機の続いているウクライナについて、ロシア語話者の間でよく知られた語学上の話題がある。「ウクライナで」「ウクライナへ」などと表現するとき、前置詞には「ブ」と「ナ」のどちらを使うか…。
一般に、前者の「ブ」が閉ざされた場所や国名の前に付けられるのに対し、後者の「ナ」は境界のない広々とした空間に用いられる。だが、ウクライナの場合は複雑だ。同国の首都キエフではほとんどの人が「ブ」を使うが、ロシア人の8割ほどは「ナ」を用いている印象がある。
ウクライナという名称には「クライ」(辺境)という単語が含まれ、「ロシアの辺境」といった感覚で「ナ」を使うのだと伝統的に教えられてきた。
かつてはそれでよかったかもしれないが、ソ連が崩壊し、ウクライナが独立した今となっては微妙な問題だ。「ブ」の使用者はウクライナを独立国と認識しているのに対し、「ナ」を使う人はウクライナとの間に境界を感じていない-との解釈が成り立つのだ。
「多くの人は慣れで『ナ』を使っており、深く考えてはいない」と話すロシア人もいる。だが、ロシアのウクライナ南部クリミア自治共和国への介入をとっても、使う前置詞とその人の政治的立場にはかなりの相関関係があると私は感じている。(遠藤良介)