
「動画や写真をしっかり編集できるPCが欲しいけど、予算は限られる」――そんなクリエイター予備群の個人ユーザーにとって、「Dell Graphic Pro」シリーズの大画面ノートPC「Inspiron 17 5000」は、なかなかうまい“落としどころ”ではないだろうか。
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●はじめに:クリエイティブな個人ユーザー向けのグラフィックス重視PC
デルが5月13日に発売した「Inspiron 17 5000」は、「Dell Graphics Pro」シリーズの新製品で、17.3型ワイドの大画面液晶ディスプレイを搭載するノートPCだ。
クリエイティブ用途向けのDell Graphics Proシリーズに属するだけあって、グラフィックス性能を重視したスペック構成、そしてアドビシステムズの個人向けフォトレタッチソフト「Photoshop Elements 12」、個人向け動画編集ソフト「Premiere Elements 11」を標準添付しながら税込10万9980円(Windows 8.1モデル)というリーズナブルな価格が目を引く。アドビのソフトはプリインストールではなく、専用ツールからダウンロード後にインストールする「デジタルデリバリー」形式での提供となる。
大画面モデルゆえにボディは大柄だが、このクラスにしては比較的薄く、外観のデザインもシンプルにまとめられて圧迫感がない。本体サイズは約414.3(幅)×285.7(奥行き)×28.4(高さ)ミリで、重量は約3キロだ。実測では2.904キロとほぼ公称値通りだった。ノートPCとはいえ3キロ近くあるので、当然ながら据え置きもしくは屋内をたまに移動する程度の使い方が前提となる。
基本スペックは、CPUに開発コード名「Haswell Refresh」の超低電圧版であるCore i7-4510U(2.0GHz/最大3.1GHz)を採用。グラフィックス機能にCPU内蔵のIntel HD Graphics 4400だけでなく、外部GPUとしてNVIDIAのGeForce 840Mを搭載しているのが最大の特徴だ。メモリは8Gバイト、データストレージは1TバイトHDDを装備し、最近のノートPCでは省略されがちなDVDスーパーマルチドライブも内蔵している。グラフィックス性能を重視しながらも全体的なコストとのバランスを意識した内容だ。
17.3型ワイド液晶ディスプレイの表示解像度は1600×900ピクセルだ。画素密度は約106ppi(pixels per inch)になる。昨今はフルHDオーバーの高画素密度ディスプレイも少なくないが、ノートPCで106ppiの画素密度だとピクセルがはっきり見えるため、精細さは感じない。ただし、17.3型ワイドの大画面をスケーリングの拡大表示などせず利用できるため、作業領域には余裕がある。目視の印象は十分な輝度と発色を確保しているが、TNパネルのため上下方向の視野角は狭い。チルト角度の調整は正しく行う必要がある。
端子類の内容もコストに配慮しており、USB 3.0ポートは1基に限られる。ただし、USB 2.0ポートは3基あり、SDXC対応SDメモリーカードスロット、1000BASE-Tの有線LAN、HDMI出力など、端子類は豊富だ。IEEE802.11b/g/nの無線LAN、Bluetooth 4.0+HSも標準搭載している。また、音響技術ソフトウェアに「Wave Maxx Audio Pro」を導入したサウンドシステムを搭載し、ノートPCとしてはパワフルなサウンドが楽しめる。
●ボディと製品概要:外部GPUに光学ドライブも内蔵するフルスペック構成
●注目ポイント:グラフィックス性能重視の基本スペック
デルのGraphics Proシリーズは、動画や写真の編集などを行なうクリエイティブ用途に適したスペックのPCを法人だけでなく個人ユーザーにも提供するというコンセプトの製品群だ。グラフィックス優先のスペック構成、アドビのクリエイティブソフト、そして求めやすい価格が特徴となる。
Inspiron 17 5000もそのコンセプトは踏襲しており、外部GPUにNVIDIA GeForce 840M(専用メモリ2Gバイト)を搭載している。3Dゲームもできる高い3D描画性能を備えるほか、アドビ製クリエイティブツールのアクセラレーション(パン、ズーム、回転、特殊効果のプレビューなど)にも対応し、画像の加工がスムーズに行なえる。
CPUはHaswell Refreshになってわずかにクロックが上がった第4世代CoreのCore i7-4510U(2コア/4スレッド対応、2.0GHz/最大3.1GHz)を採用。末尾の「U」が示すようにUltrabookでおなじみの超低電圧版で、TDP(熱設計電力)は15ワットに抑えられている。同じCore i7でも4コアの通常電圧版に比べて性能面では劣るが、そのぶん発熱、消費電力とも低く、ボディ設計の自由度が高い。静音性も有利というメリットがある。
これほど大柄なボディの製品で第4世代Core Uシリーズを採用する例は少ないが、最近では大画面ノート+省電力なモバイルCPUという組み合わせも徐々に増えつつある。コストパフォーマンスや上記のメリットを考慮したうえでの選択なのだろう。
Core i7-4510UはグラフィックスコアのIntel HD Graphics 4400を内蔵しており、外部GPUのGeForce 840Mとアプリケーションごとに自動で使い分けられる。3DゲームやクリエイティブアプリケーションではGeForce 840Mを使って高速な処理が行なえる一方、Webブラウザや動画再生ソフトではIntel HD Graphics 4400を使うことで電力消費を抑えるというわけだ。インテルCPU内蔵グラフィックスに備わったハードウェアエンコーダー(QSV=Intel Quick Sync Video)対応ソフトもまたこちらが使われる。
この使い分けの判断は、手動でカスタマイズすることも可能だ。グローバルなアプリケーションでは手動で変更する必要はまずないが、国内ローカル展開のカジュアルゲームなどではNVIDIAのGPUが使われないこともあるので、パフォーマンスを上げたい場合は手動で変更するとよいだろう。
●実力テスト:HDD搭載機としてはCPU処理性能、3D描画性能とも上々
それではベンチマークテストの結果を見ていこう。評価機のスペックをおさらいすると、Core i7-4510U(2コア/4スレッド対応、2.0GHz/最大3.1GHz)、GeForce 840M、Intel HD Graphics 4400、8Gバイトメモリ(PC3L-12800/シングルチャンネル)、1TバイトHDD(5400rpm)、64ビット版Windows 8.1という内容だ。
テスト結果のグラフには、参考までに同社の14型ノートPC「Inspiron 14 7000」(Core i5-4200U、Intel HD Graphics 4400、4Gバイトメモリ、500GバイトHDD、64ビット版Windows 8)のスコアも併記した。
CPUは超低電圧版の最新モデルであるCore i7-4510Uだが、その性能を計測するCINEBENCHでは従来のCore i7-4500UやCore i5-4200U搭載機よりも順当によいスコアが出ており、CPUのポテンシャルが最大限に発揮できているようだ。
一方で、ディスク性能を測定するCrystalDiskMarkの結果は2.5インチHDDとしてごく一般的なスコアだ。当然ながらSSDには遠く及ばず、ストレージ性能の影響が大きいPCMark 7のスコアも振るわない。購入時にはSSDやハイブリッドHDDの構成を選べないため、この点は割り切りが必要になる。
GeForce 840Mの3D描画性能が注目されるが、3DMarkのスコアは標準的なIntel HD Graphics 4400搭載ノートPCに比べて、Cloud Gateで1.3~1.4倍、FireStrikeで2.2~2.3倍といったところ。FINAL FANTASY XIV:新生エオルゼアベンチマーク キャラクター編でも2倍前後だった。外部GPUのメリットは確かだが、今回のテストではNVIDIAが「Intel HD Graphics 4400比で5倍のパフォーマンス」とアピールするほどの差は得られなかった。
BBench 1.01で計測したバッテリー駆動時間は5時間25分だった(満充電から残り5%で休止状態に入るまで)。据え置き型前提のモデルだが、万一の停電が発生した場合などを考えると心強い結果だ。
静音性にも優れている。低負荷時は意識すればわずかにファンの回転音が聞こえるかというレベルで、高負荷時の静かさは最近レビューしたノートPCの中ではNo.1といえるほどだ。大柄なボディに超低電圧版CPUを搭載した熱設計の余裕が現れている。動作中の発熱については排気口が左側面にあるため、底面の左端付近を中心に、ボディ左側の温度がやや高い傾向にあるが、不快に感じるレベルではない。
●ベンチマークテストの概要
・パフォーマンステスト
・Windowsエクスペリエンスインデックス(PC総合評価)
・CINEBENCH R15(CPU性能評価)
・CINEBENCH R11.5(CPU性能評価)
・Crystal Disk Mark 3.0.2(ストレージ性能評価)
・PCMark 7 1.4.0(PC総合評価)
・3DMark 1.2.362(3D性能評価)
・FINAL FANTASY XIV:新生エオルゼアベンチマーク キャラクター編(3D性能評価)
※Windows 8.1の電源プランは「バランス」に設定
・バッテリー駆動時間テスト
・BBench 1.01
※電源プラン「バランス」+輝度40%固定+無線LAN接続+Bluetoothオン。BBench 1.01(海人氏・作)にて「60秒間隔でのWeb巡回(10サイト)」と「10秒間隔でのキーストローク」、WebブラウザはInternet Explorer 11を指定し、タブブラウズはオフ。満充電の状態からバッテリー残量が残量5%で自動的に休止状態へ移行するまでの時間を計測
・騒音テスト
・騒音計で実測(本体から手前5センチ、暗騒音32デシベル、室温28度)
発熱テスト
・放射温度計でボディ表面温度を実測(室温28度)
●まとめ:高コストパフォーマンスの個人向けクリエイティブマシン
デルの直販価格はWindows 8.1モデルで10万9980円、Windows 7 Professionalモデルで11万4980円からだ(いずれも税込)。Windows 7が選択できる点に魅力を感じる向きもあるだろう。
17.3型ワイドの大画面液晶ディスプレイとGeForce 840Mを中心としたグラフィックス優先の基本スペック、光学ドライブも内蔵するフルスペックのノートPCであり、さらにPhotoshop Elements 12とPremiere Elements 12も付属してこの価格なのだから、個人の写真/動画編集マシンとして買い得感は高い。
昨今のノートPCトレンドと見比べると、液晶ディスプレイの解像度や視野角、HDDしか選べないストレージ構成など、物足りなさも感じるところだが、「個人でも求めやすいクリエイティブユースのPC」をテーマにした製品だけに、外部GPUの搭載を優先したスペック構成は理解できる。価格を考えると文句はない仕様だ。
趣味でクリエイティブツールを使う機会が多い方、予算に限りがあるクリエイター予備軍の学生の方などは、検討する価値が大いにあるだろう。
[鈴木雅暢,ITmedia]
次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)は5月20日、スカパーJSATの124/128度CS放送インフラを使って実施する4K試験放送の概要を発表した。しかし放送番組の中には、6月に開幕するサッカー「2014 FIFAワールドカップ ブラジル」の文字はなかった。
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チャンネル名称は、「Channel 4K」(ちゃんねるよんけい)。6月2日(月)の13時に放送を開始し当初は13時から19時の1日6時間程度の放送となる。映像はHEVC(H.265)で圧縮した4K/60p(3840×2160ピクセル、60フレーム/秒)。現行のハイビジョン放送に比べて縦横2倍(画素数は4倍)。毎秒60フレームのプログレッシブ表示のため、動きもより滑らかになる(現行の地デジはインタレース)。
試験放送は誰でも無料で視聴できるが、受信には124/128度CSデジタル放送対応アンテナや4K試験放送対応チューナー(5月20日現在、シャープ「TU-UD1000」のみ)、そして4K入力およびHDCP 2.2対応のHDMI端子を備えた4Kテレビが必要になる。また、著作権保護のためのスクランブル解除のため、次世代放送推進フォータムが設置するコールセンターに視聴申し込みを行う必要がある。
また、J:COMが6月2日に開始するRF(同軸ケーブル=ケーブルテレビ)とIP(IPネットワーク)による実験放送でも、同じコンテンツが放送される見通しだ。NexTV-Fでは「CATVやIPTV事業者からNexTV-Fに対して4K試験放送の同時再放送を希望する申請があれば、技術上、運用上の要件などを精査した上で再送信に同意する予定」としており、J:COMは既に申請済み。ただし、現時点では4K対応のSTBを一般家庭に販売(およびレンタル)する計画はなく、全国のショップやショールームなど20カ所で公開する予定だ。
●ワールドカップは4Kで放送されるのか?
「Channel 4K」で放送する番組について、NexTV-Fは「初期にはフォーラム加盟の放送局各社が制作した4K番組が中心」になるとしている。これは、2013年にNexTV-F加盟各社が補助金を使って撮影した4Kコンテンツ――NHKの富士山をテーマにしたドキュメンタリーや、TBS「世界遺産」、日本テレビのプロ野球、フジテレビの「フジサンケイクラシック」など15作品を指し、すべて放送することが決定している。ただし、それ以外のコンテンツは未定で、当初はリピート放送がメインになりそうだ。
NexTV-Fのプレスリリースでは「受信器の普及に資するよう、段階的に編成・放送内容を拡充していく予定」としているが、6月12日に開幕する「2014 FIFAワールドカップ ブラジル」に関する記述はなし。直接問い合わせても「コメントできる立場にない」という回答だった。また、20日に4K試験放送対応のチューナーを発表したシャープも「ワールドカップについてはまだはっきりと聞いていない」(同社)と話していた。
しかし、2014年を「4K元年」と位置づける業界各社は、ワールドカップの4K放送が実現できれば強力な普及の後押しになると見ている。今回のワールドカップは、日本のデジタル放送方式を採用したブラジルで開催されることもあってか、4K/8Kに関する検証や撮影実験が多く実施される。NHKは8K、ソニーは4KでFIFAと協力し、複数の試合を高解像度カメラで撮影する予定だ。
具体的には、NHKはRio de Janeiro(リオデジャネイロ)で8K撮影を行い、その映像を国内4カ所(とブラジル国内)に設置するパブリックビューイングで公開する計画。一方のソニーは、Belo Horizonte(ベロオリゾンテ)およびリオデジャネイロで4K撮影の検証、およびFIFAオフィシャルの4K映像撮影に協力する。映像はスタジアム内のパブリックビューイングで公開されるほか、店頭の4K対応「ブラビア」でも2分ほどのダイジェスト版を視聴できるようになる。ただ、4K試験放送へのコンテンツ提供についてたずねると、やはり「コメントできる立場にない。FIFAに聞いてほしい」(ソニー広報)。
しかし、日本国内にもコメントできる立場の人がいた。
新藤義孝総務大臣は5月20日、閣議後に行われた記者会見で「6月から始まるサッカー・ワールドカップの試合について、4Kで放送ができるように今、関係者間で最終の調整中と聞いている」とコメントした。調整がつき次第、NexTV-Fから公表される見通しだという。
「Channel 4K」放送初日の6月2日には、NexTV-F主催の記念式典が開催される。その場で明るい報告が聞けることを期待したい。
ドワンゴとニワンゴは5月21日、「ニコニコ動画」で今夏ごろから新動画圧縮規格「H.265/HEVC」による配信を始めると発表した。現在のH.264 MPEG-4 AVCより圧縮率が2倍に高まっており、トラフィック混雑時でも同じ画質の動画を快適に視聴できるとしている。
まず一般会員が混雑時に表示される低画質動画ついてH.265/HEVCへの変換を開始。その後、順次同規格に対応した動画を増やしていく。
同規格はH.264 MPEG-4 AVCの後継コーデック。圧縮率に優れ、ニコ動のトラフィック緩和が期待できるとしている。ただ、視聴にはデコーダを搭載する端末が必要な上、PC用Webブラウザも未対応。将来は端末の普及やトラフィック緩和効果をみながら、プレミアム会員がより高画質な動画を視聴できるよう、新規投稿動画について順次対応していく。
国内ではNTTドコモの「dアニメ」がH.265/HEVCへの対応を始めた(「dビデオ」も対応を予定)。ドコモ夏モデルでは12機種中8機種が同コーデックに対応する。